念仏上人〈中村周道上人〉
南無と思ひ
阿弥陀仏といふほかは
いふこともなし
思うこともなし
念仏
念仏上人御法語
1.山居の御法語
男女の境界なければ、愛欲のおもいなし。
妻子眷属なければ、瞋恚の気なし。
貧窮無福の身なれば、盗賊のうれいなし。
木食草衣の身なれば、諸人の煩いを得ず。
ひとり草庵にすめば、造作のおもいなし。
朝夕燈火なければ、摂取の月を燈火とす。
深山に人かなわざれば、勤行かくることなし。
念仏の行人なれば、聖教の望みなし。
仏神にまみえ奉れば、画木像の望みなし。
西方遠しといえども、行ずれば眼前に来迎す。
2.道歌集
なかなかに山の奥こそすみよけれ 草木が人のとがを云わねば
神も見よ仏も照らせわがこころ いくほどもなき此の世なりせば
親孝行するを守らぬ神はなし 親はこの世の活き仏なり
子を思う親のこころはひとすじに 南無阿弥陀仏の声をたよりに
おそろしや前も後ろもみな無常 にげ道たのめ弥陀の浄土へ
極楽へやってほしいと思うより 思うことなし厭うことなし
常にただいま死するぞと思うのみ 止悪修善に進む妙薬
口をして鼻の如くにならしめよ 災いおこることはなきなり
仏法のその奥々とたずぬれば 南無阿弥陀仏の口もとにある
弥陀たのむ外にたのみはなかりけり 三世の仏の捨てし身なれば
南無と思い阿弥陀という外は いうこともなし思うこともなし
われは唯南無阿弥陀仏というばかり 身をば慈悲ある弥陀にまかせて
南無阿弥陀仏六字の外に知らぬ身は 南無阿弥陀仏という外はなし
あら楽や布団かむりて足のべて 極楽へゆく修行するとは
南無阿弥陀仏 口は仏の出入口 仏通して鬼を通すな
手と足といそがしけれどナムアミダ 口と心のひまにまかせて
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と唱うれば 極楽の外にゆくところなし
ただ申せ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏 ひとつ以てもうしつらぬけ
3.常のお言葉
〇 すべてに無駄をはぶきなさい。町へ行っても、用事は一度に兼ねて果たし、時間を節約するのです。時間を粗末にするのは、仏さまを粗末にするのと同様です。
〇 時間を費やさず働いて御奉仕仕事をする。お主が等は時間つぶしの仕事ばっかりしとる。時間つぶしの仕事はやめて、一心に念仏申しなさい。
〇 着物は垢が付いていては敬いが欠けるが、継ぎはぎは幾らあっても良い。見栄を飾るなよ。色が剥げても色揚げすることはない。
〇 お寺さんは乞食の親方だということを忘れるなよ。
〇 此処の者はみなおしゃれだ。名聞が好きだ。地獄へ真っ逆さまに落ちるぞよ。今足元は火炎がもうもうしとる。早くまことの念仏申せよ。
〇 こげいな者がご厄介になって居るのだから、お布施などは皆やってもよい。が、それを善い事に使えばよいのですが、食べ物やためにならん事ばかりに使って罪を作らせ横着させては、却ってよくないから、やる事は止めておきます。
〇 地獄へ堕ちるなよ。念仏申して極楽へ参れよ。
〇 木魚のバイなど作ることはもうやめて念仏申せよ。決して勤まらんことはない。必ず仏はお見捨てになさらぬ。
〇 朝早く起きて、所々方々のお地蔵さまに御水や御花をあげ、道端の草刈り、お墓掃除をしなさい。陰徳を積むのです。こげいな者はお主が等と離れていても、心ではいつも見ている、怠けなさるなよあ、仏に裏表はない。
〇 通りにお地蔵さまがござったら、必ず拝んで通れよ。お地蔵さまは一丁は付いていらっしゃる。
〇 皆が一緒に仕事をすると、人さまの悪口やら罪になる話ばっかりだ。別々になって、その口で念仏申せ。
〇 負けることに骨を折りなさい。人に勝とうとするは憍慢、負けようとするが仏法。
〇 この世を捨てよ、捨てたならきっと仏に握られる。
〇 うかうか暮しして念仏を怠っておるのは、小判を路にまき散らして、それを拾わず、暇な時に拾おうと思うようなものだ。無駄息つかず、出入りの息を念仏に替えよ。
〇 自慢と悪口は舌切られても言いません。口は南無阿弥陀仏の出入りなされる通り道、お通り申します。
〇 大小損得を静かに深く思い見よ。いかに大事と云うたとて、念仏止めてせにゃならぬ大事な用がどこにある。
〇 大小の食と大小の便は念仏の助業ぞと、昔の御方も言うてござる。
〇 色慾は凡そ体を持つ誰にもある。丁度馬方が馬の手綱を取って、青々とした麦畑のわきを通る様なものだ。手綱を緩めると忽ち麦を食って罪を造る。殊に尼僧は色慾を棄て、尊い姿になっておるのだから、南無阿弥陀仏の手綱をしっかり締めておらんといかん。此の手綱が緩んだなら、らんごくはありません。
〇 財欲を慎めよ。起きて半畳、寝て一畳、天下取っても飯五合。
〇 色の世界に欲の娑婆、此の二つでみんな迷うておる。どうか此の世ばかりに心を取られず、極楽の方へ心を向けて、一心に念仏申しなさい。
〇 此の世は夢だ、夢の世だ。ただ念仏だけは夢でないぞよ。
〇 こげいな者の言う事には嘘はない。本当と嘘は後から判ることだ。
4.口ずさみ
時々かりに死んでみよ 生きていてこそわが身あり
身に付き添うた眷属や これを養う資産あり
みなこれ大事は大事じゃが どうで一度は死すべき身
いま死んだらばと目を閉じて 心静かに思いみよ
命にかかわる財産も 妻子眷属すべてみな
露塵ほども身に添わず
父母のご縁にさそわれて ひとり出て来た魂が
ひとり出て行くこの時の 落ちつく先はいづこぞと
まじめに思えば恐ろしや 一生なせし悪業に
報う未来のわが宮は 三途決定とあるからは
どんな理屈も念仏の 懈怠の弁護にならぬなり