法城寺総代岩田家の古い墓碑に徳本行者の名号が刻まれていた。その墓じまいをするに際して名号石は当山に安置することになり、令和7年7月30日 に開眼供養を勤めた。

碧南市大浜は荒井山九品院開山の徳住上人の生誕の地である。菩提寺は実家の目の前大浜大仏の海徳寺であり、そこには徳住上人の師である徳本行者の大きな名号石がある。碧南には徳住上人の浅からざる因縁がある故に、岩田家の墓にも徳本行者の名号が刻まれる縁があったのだろう。

徳本行者

宝暦8年（1758）—文政元年（1818）10月6日。名蓮社号誉称阿。紀伊国日高郡志賀久志の人。俗姓は田伏氏、幼名は三之丞。江戸後期の代表的な捨世派念仏聖。四歳の時、隣家の小児の死を見て無常を観じ、九歳で出家を望むも許されず、10歳を過ぎる頃から念珠を袖に入れて日課念仏を修し、16歳のとき、三宝に誓って朝夕二時の勤行式を定め励声念仏を行ず。天明4年（1784）27歳、母の許しを得て財部村往生寺の大円について得度し、翌年春には大滝川月正寺にて30日間の苦行念仏を修す。次いで落合谷、千津川と草庵を移し、言語を絶する苦修練行を続けた。自行と共に化他に向かうのは寛政9年（1797）頃からで、同年秋より河内・摂津を行脚して日課念仏を授与し、赤塚山の草庵では参詣者に名号を授与して念仏を勧めた。のち紀州徳川家の招請で須ヶ谷の草庵に戻るも、享和元年（1801）には摂津の勝尾寺の松林庵に居し、同3年10月、京都獅子谷法然院にてそれまでの長髪長爪の異相を改め江戸へ赴く。12月には小石川伝通院智厳から宗戒両脈を相承。その後も各地の教化は続き、文化9年（1812）紀州徳川家の請いに応じて国内を化益し、和佐山に庵を賜る。同11年増上寺典海の招請を受け関東に下向。江戸でも評判は高く、以後、同年9月から同14年12月に至るまで、伊豆を皮切りに関東諸国、信濃・飛驒・加賀・越後の各地を巡教遊化した。生涯は一所不住の捨世念仏に徹したもので、終焉の地は彼のために建立された小石川一行院。法話は『一枚起請文』のみに依拠し、教化方法は勧誡・日課誓約・剃度作法・名号授与からなり、各地に独特の名号および名号石（塔）、信者による徳本講が伝えられる。